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新和実業株式会社は熱処理設備・温度制御・雰囲気制御・湿度計測の専門メーカです。

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〒471-0855 愛知県豊田市柿本町6丁目9番地11

露点計とエリンガム図の活用Ellingham Diagram

エリンガム図と一緒に使いたい金属熱処理炉の雰囲気ガスに使える露点計測機器はこちらから
ここでは熱処理雰囲気における露点計とエリンガム図の活用について,特にN2+H2雰囲気下での鉄の熱処理に伴う酸化・還元について解説します。
このイギリス人Ellinghamが1949年に示したエリンガム図を使うことで,熱処理雰囲気の組成と温度と金属元素の酸化・還元(炭素鋼の場合は浸炭・脱炭も)について容易に理解できます。
例えば,合金鋼の浸炭においてキャリアガスをRXガスとした場合において,なぜ粒界酸化が発生するのかなど,エリンガム図と雰囲気の温度,CO分圧/CO
分圧またはH分圧/露点から容易に考察ができます。
大学の工学部(物質系・機械系・かつての金属工学科)の学部3年生の段階でこのエリンガム図について講義を聴いた方も多い一方,今ひとつ理解ができなかった方が多いのが実状です。そういった現場の技術者の新たなツールとして,このMicrosoft Excel版のエリンガム図を作成し,無償にて公開しました。
エリンガム図に露点からダイレクトにH2O分圧を計算して入力し,雰囲気の酸化物が生成するときの標準自由エネルギーΔG0を計算する計算式を組み込んだものはほかにはありません
このエリンガム図をH
2やCOによる酸化物の還元の鳥瞰図としてご利用下さい。なぜ,金属の熱処理雰囲気の露点計測が重要なのかがご理解頂けるはずです。
また,脱炭素時代のN
2+H2雰囲気による熱処理と露点計測の可能性についてご理解頂けるはずです。
酸化・還元については感覚的に考えるだけでは難しいため,分析値や計測値を元に,先人の知恵を活用して数式で検証し,次のステップに進めることが求められます。

新和実業株式会社が新たに工夫し,作成したMicrosoft Excel上で動作するエリンガム図
CO分圧とCO2分圧の比からだけでなく,露点温度(水蒸気分圧)と水素分圧の比からも
金属元素の酸化・還元について検討ができます。

はじめに

弊社では露点計測システムまたは赤外線CO2/CO分析計(ポータブルまたは分析計盤)にご興味のあるお客様に、下記の演算式が入っているエリンガム図付のMicrosoft Excelによる計算用ファイルを無償にてご提供いたしております。炉温や露点,炉内のCO2とCOの分圧など、わずかなデータを入力すれば以下の熱力学や金属工学の知識があまり無くても容易に計算結果が得られ,金属の酸化・還元と雰囲気の温度,組成の影響について理解することができます。鋼の浸炭雰囲気の場合,カーボンポテンシャルの演算も含みます。必要とされる方は弊社までご連絡ください。
なお,大学・高専(工学部の物質系・物理系・材料系・機械工学系の学科,昔,金属工学科と言っていた学科など)・工業高等学校での授業で教育用にお使いになる場合には,無償・無条件にてご提供しておりますのでご活用下さい。学生さん,生徒さんへの配布も可能です。既に大学(工学部)での学部3年生向けの授業でご活用頂いている事例がありますのでご担当の先生から弊社までお気軽にご連絡ください。必要であればデータの追加方法などもお知らせします。
COまたはH2による金属元素の酸化・還元反応について俯瞰し,理解するための鳥瞰図として,このExcelファイルをご利用ください。
また,お使い頂いた皆様からの改善のご提案にもご連絡頂ければ可能な限り対応いたします。

エリンガム図とは,各種酸化物の標準生成自由エネルギーΔG0(酸素ポテンシャル)と温度Tとの関係をグラフにとり,それらの物質の物理的状態が変化しない温度域では,それらの関係は直線関係で表されることを図に示したものです。
酸化物が生成するときの標準自由エネルギーΔG0は温度と酸素分圧PO
2にのみ依存します。つまり,次式で示されます。
             
ΔG0=RTlnPO2 (kJ/mol)
エリンガム図に雰囲気の温度と酸素分圧(全圧を101325Pa=1atmとしたとき)をプロットとしたとき,その点が各金属の酸化反応の線の上の領域では酸化物が,下の領域では金属が安定となります。
つまり,熱処理炉の雰囲気が処理する対象の金属を酸化させる条件か,還元させる条件かがエリンガム図から一目瞭然で分かります。
雰囲気の酸素分圧は,炉内雰囲気のPH2/PH2O比またはPCO/PCO2比と温度から求めることができます。

このエリンガム図を利用し,雰囲気熱処理炉における雰囲気の温度と雰囲気の組成(PCO/PCO
2,またはPH2/PH2O)からPO2を計算します。これにより,その炉内雰囲気中で酸化・還元(鋼であれば,酸化するかどうか,脱炭するかどうか,光輝焼入れが可能か)が検討できます。また,最新版にはCpCalcの機能を一部搭載しましたので炉内雰囲気の温度,CO分圧(PCO),CO2分圧(PCO2)から鋼の焼入炉の雰囲気のカーボンポテンシャルの演算も可能で,カーボンポテンシャルを利用した鋼の浸炭についての評価もできます。
新和実業株式会社からご提供するExcel版のエリンガム図では,
H2O分圧(PH2O)を雰囲気の露点温度からSONNTAGの式により計算します。

以下の計算事例では手順を追って計算していますが,これをご提供しているExcel版のエリンガム図では,Excelのワークシート上にデータを入力することで,即座にグラフに計算した結果を表示します。
入力するデータは露点計赤外線CO2/CO分析計を使うことで,製造現場で容易に得ることができます。

鋼の熱処理をN2+H2雰囲気で行う場合の計算例

以下の計算例では,純鉄に近いFeの粉末焼結をメッシュベルト型の連続焼結炉で熱処理する場合の冷却帯における鉄の酸化・還元について想定しています。この計算例を応用して,N2+H2雰囲気による鉄鋼材料の焼入や焼鈍(電磁鋼板の歪取焼鈍での酸化防止のための雰囲気管理なども含む)やろう付の雰囲気の検討にも利用できます。

2H2+O2=2H2Oの反応において、酸化物の標準生成自由エネルギーは、

     ΔG0=-483600+89T (J/mol) T:絶対温度(K) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥@

で与えられる。
2H
2+O2=2H2Oの反応の平衡定数Kは、

     K = (PH2O)
/((P2)(PO2)) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥A

で与えられる。

     ΔG=−RTln(K)   R:気体定数 (=8.3145J/mol)

なので、A式より、

     ΔG=−RTln((P
H2O)2/((PH2)2PO2))
        =2RTln(P
H2/PH2O)+RTln(PO2) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥B

@式、B式より、

     RTln(P
O2)=−483600+89T−2RTln(H2H2O) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥C

C式から、

     PO2=exp((−483600+89T−2RTln(H2/PH2O))/(RT)) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥D

炉内雰囲気の露点(または霜点)(℃)を鏡面冷却式露点計により計測し、それをSONNTAGの式に代入して雰囲気の水蒸気分圧を求める。
このとき、
炉内雰囲気の圧力は1atm(101325Pa)と仮定して考える
(SONNTAGの式の詳細はJIS Z 8806:2001(湿度ー測定方法)を参照のこと。)

SONNTAGの式は次の式による。
    水の温度T(K)における飽和水蒸気圧(Pa)
    =exp(−6096.9385T-1+21.2409642−0.02711193T+0.00001673952T2
               +2.433502 ln(T)) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥E

    氷の温度T(K)における飽和水蒸気圧(Pa)
    =exp(−6024.5282T-1+29.32707−0.010613868T+0.000013198825T2
                  
+0.49382577 ln(T)) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥E’

E式のTは露点温度(K)、E’式のTは霜点温度(K)であり、絶対温度である。

E式またはE’式により露点温度(または霜点温度)T(K)における飽和水蒸気圧(単位:Pa)が与えられる。

ここで、鏡面冷却式露点計で計測した露点温度(または霜点温度)(℃)が−40℃以上であるならば、水の飽和水蒸気圧の計算式を適用してよいと考えられる(−40℃〜0℃くらいの範囲で過冷却露点を計測していると考える)。また、−40℃以下の場合は、確実に霜点を計測していると考えて良いので,氷の飽和水蒸気圧で考える。

神栄テクノロジー製のDewStarシリーズ鏡面冷却式露点計の場合、現状では露点と霜点を切り分ける機能を持たないため、便宜的にこのようにするが、ビューポートからミラーを目視で確認したときに、−40℃以上で明らかにミラーに霜が付着している場合には氷の飽和水蒸気圧の計算式を使う。
(TDLAS式露点水分計を使用するなど,露点と霜点を明確に切り分けることができる場合は,0℃を境としてE式かE'式かを使い分けるようにする。なお,CRDS微量水分計を利用する場合は変換して求められる値は霜点のみになる。)

計測した露点(または霜点)温度を絶対温度に換算し、E式またはE’式に代入し、雰囲気ガス中の水蒸気圧を求める。求めた水蒸気圧の単位はPaであるため、これをF式により単位をatmに直し、水蒸気分圧にする。

    PH
2O(雰囲気ガスの水蒸気分圧)=(雰囲気ガスの水蒸気圧)/101325 (atm)‥‥‥‥‥F

ここで、炉内に導入するPH
2(H2分圧)は、流量計などで炉内に入れるガス量などから分かる(分からない場合は推定するか熱伝導分析計または気相用水素センサで実測する必要がある)。

F式より、炉内のH
2O分圧も既知の値となるため、得られた値をD式に代入すれば、
2H
2+O2=2H2Oの反応における、ある露点温度での平衡酸素分圧を求めることができる。

例えば、N
2+H2雰囲気の焼結炉の冷却帯において、製品の温度が600℃、H2分圧が3%、冷却帯の雰囲気の露点が-5℃であったならば、 
    P
O2=1.01×10-26 (atm) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥G

同じく、冷却帯での製品の温度が600℃、雰囲気のH2分圧が3%、露点がー30℃であったならば、

    P
O2=1.47×10-28 (atm) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥G’

と求められる。

ここで、2Fe+O
2=2FeOの反応において、酸化物の標準生成自由エネルギーは、

    ΔG=-544000+138T (J/mol) T:絶対温度(K) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥H 

で与えられる。
2Fe+O
=2FeOの反応の平衡定数Kは、

    K=(
FeO)/((Fe)・(PO2)) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥I

ここで、I式のFeOとFeの活量
FeOFeはここでは1とすることができるので、

    K=1/(PO
2

よって、

    P
O2=1/K ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥J

ここで、

    ΔG=−RTln(K)   R:気体定数(=8.3145J/mol) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥K

なので、K式より、

    ln(K)=−ΔG/(RT)

よって、

    K=exp(−ΔG/(RT)) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥L

J式とL式から、

    P
O2=1/K
      =1/(exp(−ΔG/(RT))) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥M

ここで、炉温が600℃の場合M式にT=600+273.15、R=8.3145とK式をM式に代入することで、600℃における
2Fe+O
2=2FeO の反応における平衡酸素分圧を求められる。

M式を600℃の条件で計算すると、

    P
2=4.622×10-26 (atm) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥N

となる。
ここで、GまたはG’で求められた2H
2+O2=2H2Oの露点の実測値から求められた平衡酸素分圧とNの2Fe+O2=2FeOにおける平衡酸素分圧とを比較して、

     G(またはG’) > N   の場合は、炉内の製品が焼結炉の冷却帯で酸化する

     G(またはG’) < N   の場合は、炉内の製品が焼結炉の冷却帯で酸化しない

という結論になる。
上記の条件で考えると、雰囲気の露点温度が3℃付近で、炉内H
2分圧が2.5%であれば、製品がぎりぎり酸化する条件になる。

ここまでの計算は,冶金物理化学の教科書などに記載の計算を順に追ったもので(最低限,高等学校の3年生の数学の知識は必要),決して難しいことを言っているわけではない。ただし,JIS Z 8806-2001(湿度−測定方法)に記載のSONNTAGの式を利用している点は,どの教科書にも記述が無く,この式と鏡面冷却式露点計などで得られた露点の計測値を利用している点が新しい(炉内雰囲気のCO分圧とCO
2分圧を利用しているケースはこれまでにもあった)。

以上の計算を,全て紙と鉛筆と電卓で行うことは面倒で,また間違いも起こりやすいので,新和実業株式会社ではこれをMicoroft Excel版のエリンガム図としてファイルとして作成した。
炉内の温度,雰囲気中のH
2分圧,露点温度の数字をこのMicrosoft Excel版のエリンガム図にデータとして入力し,計算するとともに、計算結果をグラフ上にプロットすると,難しいことを考えなくても容易に目の前の数字から炉内にある製品の酸化・還元などについてある程度の検討ができる。

エリンガム図にプロットした例(クリックすると拡大)


らに、雰囲気のC+O2=CO2および2C+O2=2COの平衡についても合わせて考えれば、鉄系材料の熱処理における問題が仮に生じた場合でも、その解決への糸口が露点計測を行うことから得られる。鉄鋼材料の酸化、還元、浸炭、脱炭について、露点から説明ができる。

つまり、雰囲気熱処理において露点計測は雰囲気の条件設定や問題発生時の対応のために無くてはならない重要なものであることが分かる。


【参考文献】
神田輝一:『雰囲気熱処理の基礎と応用』,日刊工業新聞社,2014年5月
日本金属学会編:『講座・現代の金属学 精錬編 第4巻 冶金物理化学』,日本金属学会,1982年2月
早稲田嘉夫:『理工系学生・エンジニアのための熱力学−問題とその解き方−』,アグネ技術センター,1985年5月
日本規格協会編:『JIS Z 8806:2001 湿度ー測定方法』, 2001年4月

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