はじめに
電磁鋼板の脱炭焼鈍は,近年,特に電気自動車で求められる低鉄損の方向性電磁鋼板を得るために,その重要性が認識されている。しかし,その脱炭焼鈍の雰囲気をコントロールすることは非常に難しい。
ここで,エリンガム図に注目し,脱炭焼鈍の雰囲気について検討する。
まず,脱炭焼鈍の温度での,2Fe+O2=2FeOの反応における平衡する酸素分圧を求める必要がある。
脱炭焼鈍の処理温度における平衡酸素分圧は,Feを過度に酸化させない程度であることが求められる(ごく僅かな酸化皮膜は後処理の関係から必要)。
エリンガム図上で,雰囲気の酸素ポテンシャルをプロットしたとき,その点は2Fe+O2=2FeOの線の上または僅かに下になければならない。これを条件@とする。
次に,脱炭焼鈍の温度での,2C+O2=2COの反応における平衡する酸素分圧を求める必要がある。
雰囲気の酸素ポテンシャルが,2C+O2=2COの線よりも上にあれば,電磁鋼板は脱炭する。これを条件Aとする。
電磁鋼板の脱炭焼鈍においては,条件@および条件AのANDの条件の雰囲気であることが求められる。
処理雰囲気は?
脱炭焼鈍の処理雰囲気は,N2+H2であるケースが多いと考えられるが,炉内雰囲気の露点が下がりすぎる場合は,炉内に若干の空気を入れる可能性があるかもしれない。露点が下がりすぎると脱炭させることができない。
新和実業株式会社が提供しているExcel版のエリンガム図では,炉温,雰囲気の露点,水素分圧から雰囲気の酸素ポテンシャルを計算できるので,これを活用しながら脱炭焼鈍における処理温度に対する雰囲気の露点(℃),水素分圧(vol%)の検討ができる。
炉内雰囲気の露点(℃)から水蒸気(H2O分圧)を求めるには,Sonntagの式(ITS-90)を利用する。これでPH2/PH2Oの値を求めることができる。
使える計測器は?
脱炭焼鈍の炉内雰囲気のうち,H2分圧(vol%)は,熱伝導分析計またはプロトン伝導型固体電解質をつかったH2センサを用いることになる。近年,プロトン伝導型固体電解質を使ったH2センサが工業炉用として,株式会社TYKが開発したNOROP-Gが普及しはじめた。これは注目に値する。
ただし,脱炭焼鈍に導入する水素の量のコントロールをマスフローコントローラなどで行うケースで,炉内のH2分圧がほぼ,炉内に導入するN2とH2の量で決まる(コントロールできる)ならば,H2分圧の計測は不要と考えても良いかも知れない(ケースバイケースになる)。
炉内雰囲気の露点計測は非常に重要である。これは露点計を利用するしか方法が無い。
ここで,センサ式(静電容量式)露点センサは特に水素を含む雰囲気では特に低露点側で1年ほどでドリフトが生じやすいので,この場合は使えないと考えるべきであろう。
鏡面冷却式露点計の場合,計測する露点にもよるが,連続計測を行った場合,電子冷却素子(ペルチェ素子)への負荷が大きいため,必ずしも向いているとは言えない。
そこで,現在注目されているのが神栄テクノロジー株式会社が開発,販売している「TDLAS式露点水分計」である。これは,サンプルした炉内雰囲気を分析セル内部に導き,そこにダイオードレーザーを利用してその分析セル内でのレーザーの減衰と,分析セルの長さとの関係から,露点を導くものである。基本的には連続使用に耐えられる低露点型の露点計として位置付けられる。
エリンガム図を活用することが基本になると考えられる。
その際,雰囲気の露点計測,水素分圧の計測(または正確な水素分圧の把握)が重要になる。
鏡面冷却式露点計とは/工業用途での露点計測とは
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60台以上の販売実績を誇る台車式露点計則システムです。
露点計測範囲により,通常タイプ(-40℃〜25℃)と低露点タイプ(-65℃〜25℃)(いずれも周囲温度が+25℃の場合)の2種類をラインナップしています。
いずれも,お客様のご希望,測定条件などによりカスタマイズすることが可能です。