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新和実業株式会社は熱処理設備・温度制御・雰囲気制御・湿度計測の専門メーカです。

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〒471-0855 愛知県豊田市柿本町6丁目9番地11

露点計測の考え方KNOWHOW ABOUT DEWPOINT MEASUREMENT

金属熱処理炉の炉内雰囲気に対応する各種露点計のご案内はこちらから

はじめに

 大気中においては水分は窒素,酸素について3番目に多く含まれる成分で,大気中の最も多く含まれる極性分子である。大気だけでなく,雰囲気熱処理炉の雰囲気中にも含まれ,また,液体窒素を気化させた窒素ガス中にも含まれる。どこにでも存在すると言え,さらに吸着性が高く,除去が困難で,金属熱処理などをはじめとした様々なプロセスや環境に何らの影響を与える厄介な存在である。もちろん,地球環境の温暖化に対しても大きな影響を与えている。

 空気やガスの露点(霜点)を計測するということは,その空気やガスに含まれるH
2Oの量を計測することである。現状,露点または霜点に換算して-100℃〜100℃の範囲の露点計測が技術的には可能である。
その計測した値を利用して金属熱処理などのプロセスの制御を行う場合,少し露点(霜点)に対する捉え方を変えた方が分かり易いかもしれない。
 1atmの圧力の空気やガスの露点(霜点)は,SONNTAGの式を利用することで圧力(単位:Pa)に変換することができる。つまり,
露点(霜点)を計測するということは空気やガス中に含まれる水蒸気の圧力(分圧)を計測することと捉えなければならない。
 露点(霜点)を計測する空気や全体の圧力が1atm=101325Paである場合,これが
全圧(全体の圧力のこと)となり,計測した露点(霜点)から計算で得られた水蒸気圧を全圧で割り,それを100倍したものがガス中のH2Oの分圧となる。このH2O分圧を求めることができれば,例えばガス浸炭炉で考えたとき炉内雰囲気中のH2Oの分圧を赤外線分析計で計測したCOやCO2の分析値(分圧として表示される)と直接比較することができる。さらにエリンガム図を利用した金属の酸化・還元・脱炭についても検討することができる。
 露点(霜点)の計測は,空気やガスに含まれる水蒸気(H
2O)の圧力(分圧)を計測することであると理解すれば,露点(霜点)計測の重要性をより深く理解することができる。
 ここでは工業炉のうち,特に雰囲気ガスを使った熱処理設備における雰囲気の露点計測について,その考え方やノウハウについてまとめる。その上で,露点計測の意味や重要性について言及する。基本は熱力学的な考え方になる。

 近年,産業技術総合研究所において微量水分標準が確立された。これにより,従来より優れた特に微量水分領域や低露点領域の水分量計測器,つまり露点水分計,微量水分計が世の中に登場してきた。これらをさらに活用することで,特に金属熱処理の分野では,脱炭素につながる新たなプロセスの開発が期待されている。

 よい計測器と,よい標準,そして情熱を持って計測する人(現場に正しい計測手段と正しい計測結果の活用方法を伝える人)が存在して、初めて信頼性の高い計測が可能である。特に露点をはじめとする湿度は計測器を購入してスイッチを入れれば簡単に計測できるわけではない。

目 次

  1. 湿度に関する用語のについて
  2. 鏡面冷却式露点計(光学式露点計)とは
  3. 鏡面冷却式露点計を使った露点計測に当たっての注意事項
  4. 熱処理設備での露点計測全般について
  5. ガス浸炭炉での露点計測について
  6. よくあるN2+プロパンの雰囲気の焼入炉での鋼の脱炭によるトラブルと対策
  7. 脱炭素実現のためのN2+H2雰囲気による鋼の加熱と焼入と露点計測
  8. メッシュベルト型・トレイプッシャ型の焼結炉での露点計測について
  9. ガス窒化炉の雰囲気の鏡面冷却式露点計を使った計測について
  10. 液体窒素を気化させた窒素ガスの露点(霜点)が十分に下がらない場合の対策
  11. 露点計とエリンガム図を利用したN2+H2による熱処理雰囲気管理の考え方とその計算(別ページを開きます)

1. 湿度に関する用語について(参考:JIS Z 8806:2001)

乾燥空気
 空気から水蒸気を除いた残りの機体で構成され,単一成分の理想気体とみなされる気体。

湿潤空気
 水蒸気と乾燥空気の混合気体。

飽和水蒸気圧

 水または氷と,水蒸気とが共存して平衡状態にあるときの水蒸気の圧力。
 -100℃〜100℃の飽和水蒸気圧は,SONNTAGの式によって与えられる。

【SONNTAGの式】
 水の飽和水蒸気圧(Pa)=exp(−6096.9385T-1+21.2409642−0.02711193T+0.00001673952T2
            +2.433502 ln(T))

 氷の飽和水蒸気圧(Pa)=exp(−6024.5282T-1+29.32707−0.010613868T+0.000013198825T2
            +0.49382577 ln(T))

    Tは露点温度または霜点温度(絶対温度・単位:K)


露点
 湿潤空気中の水蒸気圧に,水の飽和水蒸気圧が等しくなる温度。
 (湿潤空気中の水蒸気が1気圧の環境で結露する温度と理解しても間違いでは無い。)
 
過冷却露点
 湿潤空気中の水蒸気が,0℃以下であっても霜とはならず,過冷却状態の水として結露する場合の温度。
 鏡面冷却式露点計を使った露点計測の場合,-40℃〜-30℃の鏡面温度であっても鏡面には水蒸気が水として結露する場合がある。
 このとき計測される温度が過冷却露点。この状態の飽和水蒸気圧を計算する場合,SONNTAGの式の水の飽和水蒸気圧の計算式を利用する。過冷却露点と霜点を鏡面冷却式露点計の光学センサで区別することは難しい(スイス・MBW製など一部の鏡面冷却式露点計では特許技術により露点と霜点の切り分けが可能)。
 なお、高分子薄膜を使ったセンサ式露点変換器の場合,0℃以下の計測値は,スイス・MBW製の鏡面冷却式露点計で計測された霜点に対して値付けをしているケースが多い。
 TDLAS露点水分計では,0℃以下は霜点で表示している。CRDS露点水分計はモル分率(ppm,ppb)を表示するが,霜点(℃)に変換して表示することもできる。

相対湿度
 湿潤空気の水のモル分率と,その温度及び圧力で飽和している湿潤空気の水のモル分率との比の100倍。
 実用上は,湿潤空気の水蒸気圧と,その温度における飽和水蒸気圧との比の100倍。
 単位の%は,相対湿度であることを明確にするために,%rhと書いても良い。

モル分率
 湿潤空気中の水蒸気の物質量と全体の物質量との比。単位はmol/mol。単位としてppm,ppbを使って表されることがある(CRDS微量水分計など)。

絶対湿度
 湿潤空気の単位体積中にある水蒸気の質量。単位としてkg/m3, g/m3が用いられる。

微量水分
 -75℃よりも低い霜点の領域について,一般的には「微量水分」と呼ばれ,霜点温度(単位:℃FP)として扱わず,モル分率(単位:ppmまたはppb)で扱う。ただし,モル分率と霜点とを相互に変換するための物理量が既知であることから,相互に変換して,利用目的に応じて都合の良い(または分かり易い)単位で扱われることもある。半導体製造プロセスで使用されるガスや高純度アンモニアガス中の微量水分に対してはppbを使うが,大気や熱処理で使うガスの場合は霜点(単位:℃または℃FP)とするケースが一般的と考えてよい。

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2. 鏡面冷却式露点計(光学式露点計)とは(参考:JIS Z 8806:2001)

原理
 結露面の温度を露点以下に下げると,露(霜)が付着し始め、露点以上に上げると,付着していた露(霜)は蒸発しはじめる。鏡面上の露(霜)の付着量の増減を鏡面からの反射光で検出し,この付着量が一定になるように結露面の温度を自動制御し,鏡面温度を制御する。それを露点(霜点)とする。

構成
 結露面の冷却には,ペルチェ素子(半導体素子)のペルチェ効果(ゼーベック効果の逆現象・フランスの時計師J.Peltierが1834年に発見)を利用した電子冷却器,小型のスターリング冷凍機などを用いる。また,ペルチェ素子とスターリング冷凍機を併用する場合もある。ペルチェ素子による電子冷却器のみを使う場合,ペルチェ素子の放熱面を水冷することで低露点側の測定範囲を広げることのできる鏡面冷却式露点計もある(日本製の場合,神栄テクノロジー株式会社製 S-2など)。
 露(霜)の付着の検出方法として,結露面からの反射又は散乱光量(フォトトランジスタなどで計測)を利用する。

不確かさ

 不確かさは0.1℃〜2.0℃であるが、次の要因も影響する。
 −測定空気の温度
 −測定空気の流量
 −配管などによる圧力損失
 −鏡面と温度センサ(結露する温度を検出するための白金測温体)との温度差
 −鏡面(結露面)の汚染
 −鏡面上の露(霜)の非平衡状態

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3. 鏡面冷却式露点計を使った露点計測に当たっての注意事項

被測定気体中の汚染物質
 
鏡面に塩類,ちり(塵),ほこり(埃),オイルミストなどの不純物が付着すると,実際よりも高い温度の露点を示すため,水分を吸着しにくいステンレス鋼もしくはフッ素樹脂又はグラスウール製のフィルタを使用して測定空気から不純物を除去し,鏡面を常に正常にしておかなければならない。
 -40℃以下の低露点を計測する場合,フィルタはステンレス鋼のメッシュまたは焼結エレメントの選択が必要となる。さらにフィルタのハウジングもステンレス鋼製にする必要がある(ハウジングのシール部には可能であればメタルガスケットを使用する)。ポリカーボネート製のハウジングはのフィルタ低露点計測では使用できない。

鏡面の清掃に使用する綿棒
 鏡面の清掃には、一般に綿棒が使われる。
この綿棒は正常な脱脂綿の綿棒(薬局等で販売されている医療用としても使えるもの)でなければならない。市販の安価な綿棒には化粧水(ローション)が含まれている場合が多く,これを使用すると,綿に含まれる化粧水が鏡面とその周囲を汚染するため、正確な露点計測はできなくなる。
 一度使用した綿棒は,再利用することはできない(鏡面とその周囲の汚染,鏡面への傷の発生につながる)。従って,使用後は直ちに廃棄すること。

鏡面の汚れがひどい場合
 鏡面の汚れがひどい場合には、綿棒に精製水(蒸留水),エタノール(精製水で希釈したものでも可),イソプロピルアルコール(IPA)などをしみこませた上で丁寧に拭き取ってもよい。
 なお,拭き取り後,さらに乾いた新しい綿棒で鏡面に残った目に見えにくい残渣を拭き取らなければならない。

ガスサンプル配管
 露点計へのガスサンプル配管は,できるだけ水蒸気の吸脱着の少ないステンレス鋼又はフッ素樹脂の配管を用い,しかもできるだけ短く配管する。
 ただし,-60℃前後までの露点計測においては,フッ素樹脂の配管は使用できるが,それ以下の領域における露点計測にはステンレス鋼の配管を使用しなければならない。-80℃以下の領域の露点計測では,配管は内部を電解研磨したステンレス鋼のチューブとし,できるだけ継手も使用しない(溶接配管が望ましい)。継手の使用が不可避な場合は,溶接継手やVCR継手(メタル・ガスケット式面シール継手)を使用する。

配管系統における流量計とガスサンプルポンプの位置と注意事項
 配管系統における流量計位置は,鏡面冷却式の次位とする。流量計は面積式流量計で良いが,流量計に流量制御用のニードルバルブを取り付けたものを使用する場合には,ニードルバルブは流量計の出口側(上側)に取り付ける。面積式流量計の常用流量は,0.3L/min〜1.0L/minとなる。ただし,ガスサンプル配管内部に残留した水分を除去するため、1.5L/min以上の比較的乾燥した空気や窒素ガスを流す場合があるため,それにも配慮した選定が必要である。
 ガスサンプルポンプはダイヤフラム式を用い,その取付位置は流量計の次位とする。ガスサンプルポンプは,最大流量が5.0L/min程度のものが望ましい。ガスサンプルポンプを流通したガスは,速やかに排気する。
 なお,ガス中に可燃性ガスが含まれる場合は、排気部分にフレームアレスタを取り付け,外部からのガスサンプル配管への炎の侵入を阻止する。

露点センサの鏡面近傍のガス圧力とガス流量
 露点センサの鏡面近傍のガス圧力は,およそ1atm(=101325Pa),ガス流量は0.3L/min〜1.0L/min(露点計測範囲により変化)となるように配管系との設計を行うとともに,ニードルバルブ付き流量計の調整をする。
 鏡面近傍のガス圧力が1atmから外れると正確な露点計測とはならない(鏡面近傍の飽和水蒸気圧が、ガス圧力に依存するため)。
 鏡面近傍のガスの圧力がおよそ1atm前後になる場合,多少の圧力変動は露点計測に対して大きな影響は無いとして無視できる場合が多いが,厳密な露点計測が必要な場合や圧力が1atmから極端に異なる場合は、圧力センサを併用した上で、鏡面近傍の絶対湿度の計測を行うこととなる(露点と圧力から露点計が持つ演算機能を利用し,計算で絶対湿度を求める)。

過冷却露点と霜点
 -30℃〜0℃の領域では、鏡面に霜が形成されず,過冷却の状態になることが極めて多い。特に鏡面を清浄にした場合は,過冷却になりやすく,-40℃まで過冷却であった例も報告されている。過冷却水と氷では,飽和水蒸気圧が異なるので,どちらが鏡面に形成されているかを常に確認する必要がある。
 近年,露点と霜点を切り分ける機能を持つ海外製の鏡面冷却式露点計(スイス・MBW製など)も販売されている。露点計測の基準器として使われているケースが多い。しかし現場計器として工業炉の雰囲気の露点計測には適していない。
 鏡面冷却式露点計ではなく,波長可変ダイオードレーザー吸収分光式(TDLAS)露点水分計を使うことで,0℃以下は霜点を出力するので,-30℃〜0℃の領域の高精度の水分量計測を行う場合はTDLAS露点水分計を選択することを検討するとよい。

高露点測定
 室温より高い露点を測定する場合,鏡面以外の箇所で結露しないよう,配管,継手,センサ部を保温する必要がある。保温の温度は機器の損傷(ペルチェ素子の劣化)に注意して設定する。

低露点測定・微量水分測定
 低露点測定の場合,水蒸気圧が非常に低いので,配管での漏れ及び配管の材料には特に注意が必要である。配管の材料は,水分が吸着しにくい,内部を研磨(鏡面仕上げ)したステンレス鋼製を使用するのがよい。また,低露点では霜の成長速度が遅くなるので,特に-40℃の露点計測では十分に時間をかける必要がある。なお、低露点での高速応答性が求められる場合は,鏡面冷却式露点計ではなく,TDLAS式露点水分計またはCRDS微量水分計を選択した方が良い場合がある。従来使用可能と言われていた静電容量式露点センサは,霜点が-80℃以下の領域の計測はできない。またセンサに劣化がない条件で,-60〜-80℃FPの領域で,計測精度は±3℃FP前後になる。


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4. 熱処理設備での露点計測全般について

 一般的に、雰囲気ガス熱処理炉の場合,古くから露点カップを用いた露点計測が行われている。
 雰囲気ガス熱処理炉の炉内雰囲気の圧力は一般に大気圧に対して10〜300Pa(約1〜30mmH
2O)程度圧力が高い場合が多い。この程度の大気圧との圧力差の場合,基本的には大気圧との差を意識せずにそのまま露点の計測をすることができる。
 炉内雰囲気の圧力によっては炉内の雰囲気ガスをサンプルポンプで吸引する必要も出てくる(この場合、露点センサに対するサンプルポンプの位置が重要になる)。

 雰囲気ガス熱処理炉のような熱処理設備の場合,炉内雰囲気が大気や窒素であるとは限らない。
 例えば,水素、アンモニア、メタノール分解ガス、RXガス、DXガスなど様々である。また、計測するガス中には粉塵が含まれる可能性がある。ガス浸炭炉であればカーボンの粉(スス)が多く含まれる。このようなガス中の水蒸気が結露する温度を正確に計測するには,適切なフィルタを利用した上で,鏡面冷却式露点計を使うことが最も適している。
 鏡面冷却式露点計は文字通り,冷却した鏡面に生じた露(または霜)を光学的に検出する。そのときの鏡面の温度を計測し,露点として出力する。これは露点の定義の通りの検出方法で,「一次検出原理」とも言う。
 一方、近年多く利用されている
静電容量式露点センサはガス中の水蒸気の吸着により酸化アルミニウムや高分子膜の薄膜の抵抗やインピーダンスが変化することを利用し,それを露点に換算している。つまり,静電容量式露点センサでは露点の定義とは異なり,得られた抵抗やインピーダンスの値をマイコンを使って露点に換算するしている。これを「二次検出原理」と呼ぶ。

 静電容量式露点センサの場合、センサ部分が炉内雰囲気ガスの成分や粉塵により劣化するため,センサの耐久性も鏡面冷却式に比較すると大きく劣る。そのため、一般的には静電容量式露点センサは元々、雰囲気ガス熱処理炉の雰囲気計測には不向きと言える。ただし,連続焼結炉では多く使用されている。精度の維持管理が難しいので,鏡面冷却式露点計を使った現場での周期的な比較校正とそれによる静電容量式露点センサの精度管理が重要となる。この精度維持管理が行われている前提で,静電容量式露点センサは生産現場での露点計測のコストダウンに貢献できる。


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5. ガス浸炭炉での露点計測について

ガス浸炭炉では,熱処理を行う温度において雰囲気ガス中に水性ガス反応が生じる。この反応で生ずるH2Oの分圧を鏡面冷却式露点計で得られた露点からSONNTAGの式により求めることで、炉内雰囲気のカーボンポテンシャルの計算もできる。また,鏡面冷却式露点計を使って露点計測を行い,ジルコニアO2センサを利用したCP計や赤外線CO2分析計のバックアップとして活用するケースもある。
 
 金属工学の古い教科書のうち,特にガス浸炭について記述したものにおいて,以下の図が示されていることがある。この図は,炉内の雰囲気温度とキャリアガスとしてRXガスを用い,天然ガス(アメリカ国内で採られたデータのため,メタンのほかプロパンやブタンなどが混合したガス)をエンリッチ添加した雰囲気ガスの露点と炉内の鋼の表面炭素量との関係を示したものである。米国Surface Combstion社のDr. O.E.Cullenにより日本に1958年頃,当時のトヨタ自動車工業株式会社挙母工場鍛造部に新設された連続ガス浸炭炉(当時,中外炉工業株式会社が米国Serface Combstion社との技術提携で作られたもの)の技術と共に持ち込まれたものである。炉内の雰囲気ガスの反応に,水性ガス反応が存在するため,炉内雰囲気ガスの露点を計測することで鋼の表面炭素量を知ることができるということは、1940年代にはガス浸炭が普及していたアメリカでは既に知られていた。また、赤外線CO
2分析計やジルコニア酸素センサが無かった時代,露点計測が唯一の定量的な雰囲気制御のための手段であった。しかし,この図では露点カップ(DEWカップ)を用いて露点を計測したため,現代の鏡面冷却式露点計を使った露点計測よりも,0.5℃〜1℃程度露点が低く計測されている(人が鏡面の曇りを目で認識してから,温度計の指示値を読むまでのタイムラグがあり,その間にも露点カップの温度が下がるため。最大で2℃程度の不確かさがあった)。
 古くからガス浸炭には露点計測が活用されてきまた。現在でも、ジルコニア酸素センサの指示値確認や赤外線CO
2分析計の指示値確認の目的で露点計測を活用しているお客様があり,それらの機器に対してもより確実な方法として認識されている。
 そして今,改めて熱処理雰囲気の露点計測が極めて重要であることが理解されつつあり,これからの脱炭素時代のN
2+H2雰囲気による無酸化加熱に重要な役割を果たすことが期待されている。
各温度における露点と表面炭素量の関係


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6.よくあるN2+プロパン雰囲気の焼入炉での鋼の脱炭によるトラブルとその対策

 弊社ホームページをご覧になったお客様からよくお問い合わせを頂くのがN2雰囲気でそこにプロパンガスを添加している焼入炉で鋼の加熱をしているお客様からよく頂くお問い合わせが次のものが「鋼でできた製品の脱炭」である。
 少し異なるお問い合わせでは,炉内で使用している耐熱鋳鋼が高温酸化するというものもあった。
 こういったお問い合わせのとき,必ず聞かれるのが「雰囲気のCP値を知りたいが,どうしたら良いのか?」ということである。

 そこで,あるお客様の問題の炉について,炉内雰囲気のCO,CO
2,CH4,露点,炉温を計測してみた。
 その結果,次のようなことが分かった。

 1.炉内に添加したプロパンは完全にCとH2に分解していると推定できた。
   (炉内雰囲気からからCO,CO2,CH4が赤外線ガス分析計により検出できなかったため)
 2.炉内雰囲気の露点が微妙に高かった(-23〜-25℃付近・@840℃)

以上の条件を弊社で提供しているMicrosoft Excel版のエリンガム図の計算シートに入力してみた。
炉内の水素分圧は,炉内に導入していたN2とプロパンの流量からプロパンが完全分解している過程で計算してみた。
 その結果分かったのが,その熱処理条件が「鋼を酸化させないが脱炭させる」というものになっていた。つまり,
雰囲気の条件が,エリンガム図上では「2Fe+O2=2FeO」の線よりも下で,「2C+O2=2CO」の線よりも上にあったということである。この意味するところは,炉内で
  2Fe+O2=2FeO の反応が左に進むため,鋼は還元する雰囲気になっている。
  2C+O2=2CO  の反応が右に進むため,鋼表面のC(炭素)は酸化され,雰囲気中にCOとなって出て行く。
ということである。
 つまり,表面状態は割と光輝に仕上がるが,鋼表面から脱炭する雰囲気になっているということである。

 炉内雰囲気中にCOやCO2がほとんど存在しない(ほぼゼロ)の雰囲気であるため,雰囲気のカーボンポテンシャルを求めることはできない(というよりも,それ以前の話)。従って,この場合何をコントロールすべきかである。
 ここで,雰囲気の露点がキーになる。上記のExcel版のエリンガム図を利用して,雰囲気の露点を-40℃と入力して計算をすると,この雰囲気の条件がエリンガム図上で「2Fe+O2=2FeO」の線よりも下で,「2C+O2=2CO」の線よりも下になる。つまり,露点を下げることができれば脱炭させることなく焼入れができるのである。
 可能であれば炉内へのプロパンの添加をやめ,H2を雰囲気の最大2〜3%程度(H2の爆発限界の4%以下になるようにする)と条件的にはより雰囲気の酸化ポテンシャルが下がる。また,案外液体窒素を気化させて作っている窒素ガスの露点が高い場合がありうる。この露点を下げることができれば,これもこの雰囲気中で脱炭しにくくなる方向に大きく寄与する。
 さらに雰囲気の露点を下げることは,鋼の粒界酸化を防ぐ(または減らす)ことにも寄与できる。

 このエリンガム図は,自由エネルギー・温度図とも呼ばれ,特に元素の酸化反応のギブスの自由エネルギーや平衡定数が温度によって変化し,温度の関数として表されることをグラフにしたものである。横軸が温度,縦軸が酸化物の標準生成自由エネルギー(酸化ポテンシャル)であり,1949年,イギリス人Ellinghamにより示された。
 この図が金属材料の熱処理においてその条件の妥当性の評価,不良解析などに大いに役立つ。


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7. 脱炭素実現のためのN2+H2雰囲気による鋼の加熱と焼入と露点計測

 今,2030年に向けて,金属熱処理の分野でも脱炭素に向けての取り組みが模索されている。
 そこで,改めて,ギブスの自由エネルギーによる鋼の雰囲気加熱と焼入について雰囲気ガスの脱炭素化についてここで考えてみる。
 熱処理については,基本的には従来,光輝焼入(脱炭も浸炭もさせない焼入)をしていた材料(例えばS45Cなど)で考える。

 なお,
焼入は油焼入または,ソルトへの焼入(オーステンパー処理)を想定する。

 雰囲気ガスについては,従来のCO-CO
2-H2-N2-H2-H2Oで構成れるRXガスベースから,雰囲気の脱炭素のため,N2+H2雰囲気とする。
 炉内のH
2分圧は,H2の爆発限界から考えて,濃度を3vol%として考える。
 ここで2Fe+O
2=2FeOと2C+O2=2COの反応におけるギブスの自由エネルギーについて,エリンガム図を使って考える。エリンガム図を使った具体的な計算の詳細については,こちらを参照して下さい。

 N2+H2雰囲気の組成について,N2が97vol%,H2が3vol%とする。炉内にはこれらのガスはマスフローコントローラを使って正確に導入するものとする。また,炉内に供給するN2およびH2は十分に露点が下がっている前提とする。具体的には-50℃以下の露点(霜点)のN2とH2が供給される前提で考える。

 エリンガム図のExcel版を新和実業株式会社にて製作し,必要な方には無償で配布しているが,日本金属学会の金属物理化学などの教科書にも記述があるのでそれらを参考にして考えると良い(エリンガム図のExcel版が必要な方はこちらから新和実業株式会社までご連絡下さい)
 Excel版のエリンガム図には,加熱温度と炉内のH2分圧と露点(霜点)を入力する。

 処理温度を鋼がオーステナイト域にある850℃としたとき,雰囲気ガスの酸素ポテンシャルΔG02Fe+O2=2FeOの線よりも下で,かつ2C+O2=2COの線よりも下にあるとき,その雰囲気中では鋼は酸化も脱炭もしない。つまり,鋼の光輝焼入ができる領域に雰囲気があるということである。
 この雰囲気が実現できれば,鋼のズブ焼きにおいてRXガスを使う必要は全く無い。熱処理の雰囲気の脱炭素化ができるだけでなく,設備費用の低減(RXガスを使わなければ,炉は長持ちするし,RXガス発生機も不要になる)にもつながる。
 また,当然のことであるが炉内雰囲気中にCOやCO2が存在せず,H2Oも少ないことから鋼の粒界酸化は生じにくい。
 ただし,この雰囲気では浸炭することは難しい。炉内雰囲気中に減圧浸炭炉(真空浸炭炉)と同様,微量のエチレンかアセチレンを導入することで可能かもしれないが,今後の検討と実験が必要である。

 ここで注意したいのが雰囲気の露点(霜点)である。処理品が炉の外から炉内に酸素や水蒸気を持ち込むが,これを昇温中に雰囲気ガスで置換し,炉内雰囲気の露点(霜点)を下げなければならない。
 露点を下げる目標は,概ね,-30℃以下で,-40℃以下であることが望ましいと思われる。-30℃以下の露点(霜点)であれば,鋼は酸化も脱炭もしないのでRXガスを利用しなくても焼入ができる。

【応用例として】
 電磁鋼板の焼鈍についても同様の考え方で雰囲気のコントロールをエリンガム図を見ながら検討する必要がある。導入するH2をH
2の爆発限界の4%を超えない程度で設定し,雰囲気の露点を0℃以下にすることになるのではないかと考えられる。

 これらの場合に利用できる露点計は,例えば鏡面冷却式露点計(低露点仕様)またはTDLAS式露点水分計になる。
 連続計測を考える場合,ペルチェ素子を用いていないTDLAS式露点水分計の方が故障しにくいのでメリットがある。


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8. メッシュベルト型・トレイプッシャ型の連続焼結炉での露点計測について

 メッシュベルト型連続焼結炉やトレイプッシャ型連続焼結炉などの雰囲気ガス焼結炉では特に冷却帯における雰囲気ガスの露点管理が重要になる。

【露点計の選定】
 
雰囲気の露点(霜点)がー40℃〜0℃に入るN2+H2雰囲気の場合,N2+RXガス雰囲気の場合
 ⇒ 標準タイプ鏡面冷却式露点計
   雰囲気の霜点が常時-40℃に近い場合は低露点タイプを選定する。
   連続計測には向かないので,粉塵の少ない雰囲気ガスであればTDLAS式露点水分計を選定する。

 雰囲気の露点(霜点)が-65℃〜ー40℃のN2+H2雰囲気の場合で粉塵の多い雰囲気の場合
 ⇒ 低露点タイプの鏡面冷却式露点計
   連続計測には向かないので,粉塵の少ない雰囲気ガスで連続計測が必要な場合は
   TDLAS式露点水分計を選定する。

 雰囲気の露点(霜点)が-65℃以下になる可能性がある場合
 ⇒ TDLAS式露点水分計またはCRDS微量水分計を選定する
   露点(霜点)の連続計測にも対応できる。
   粉塵の多い雰囲気の場合にはフィルタの選定および配管の材質や施工に注意が必要。
   炉内雰囲気だけでなく,炉内に供給するN
2ガスの露点の管理も重要。特に液体窒素のストレージの
   内部に大気中の水蒸気が氷となって浮遊しているケースが多く,この管理が雰囲気ガスの低露点化
   には求められる。この場合,CRDS微量水分計を使ったN
2ガスの連続露点計測が有効と考えられる。

【雰囲気ガス焼結炉における静電容量式露点センサの使用の是非】

 雰囲気ガスを使った焼結炉(メッシュベルト型,トレイプッシャ型)においては,静電容量式露点センサ(アルミ薄膜静電容量式または高分子薄膜静電容量式)を使用しているケースがある。
 静電容量式の場合,センサ先端の感湿部に水蒸気が付着すると,センサ部分の静電容量が変化する。その変化量を露点または霜点(0℃以下の場合)に値付けし,露点または霜点を表示している。
 この
静電容量式露点センサの感湿部は,一般にH2ガスに強くないという特性を持っている。メーカーや機種にもよるが感湿部が新品の時点から1年〜2年の使用で計測値のドリフトが生じやすいことが知られている。そのため,正確な露点(霜点)が計測できなくなる。
 その対策として,
鏡面冷却式露点計を1台用意し,複数台の静電容量式露点センサの精度確認(これを比較校正という)を現場レベルで定期的に実施することが求められる。鏡面冷却式露点計は精度が落ちにくいため,これを基準器として使い,静電容量式露点センサの精度確認を行うのである。
 鏡面冷却式露点計やTDLAS式露点水分計が比較的高価であるので,静電容量式露点センサを鏡面冷却式露点計やTDLAS式露点水分計でバックアップ(精度確認)することで,現場での運用コストの低減につなげることができる。

 静電容量式露点センサは,単独で使うのではなく鏡面冷却式露点計やTDLAS式露点水分計と共に利用することで,現場でのメリットを大きくすることができる。

【雰囲気ガス焼結炉での露点計測の必要性】
 炉内雰囲気の露点を計測することで、炉内のH
2O分圧を求めることができる(炉内のガス圧力をほぼ101325Paとして考える)。このH2O分圧が求まると、炉内に導入しているH2が流量計を使って炉内に導入していることから,その分圧が既知の値として扱うことで、炉内のH2分圧とH2O分圧との比が求めらる。炉内の雰囲気の温度も計測することで既知の値となるので,これらの数値からこの炉内雰囲気の持つ酸素分圧を計算により求めることができる。
 一方,ステンレス系の粉末焼結であればCrが冷却帯において酸化しないことが求められる。Crが連続焼結炉の雰囲気中で参加するかどうかを検討する際,炉内(冷却帯)のH
2分圧とH2分圧からCrが酸化するかどうかを評価することができる。つまりCrの酸化物標準生成自由エネルギーを与える式を利用して評価することができる。新和実業株式会社では,これを簡単に評価するためのツール(Excel版のエリンガム図)をお客様に提供している【詳細はこちら】。その求めた酸素分圧から,炉内雰囲気の露点がが少なくとも何℃まで下がっている必要があるかが分かる。求められた酸素分圧の比較をすることで,冷却帯において雰囲気の露点が何℃以下でなければならないかが判断できる。また,炉内へのH2の導入量を増やす必要があるかどうかを判断することができる。
 つまり,
雰囲気ガス焼結炉の雰囲気管理には、露点計測が必須ということになる。
 ここで,露点計測に使う露点計は,可能であれば低露点タイプの鏡面冷却式露点計を選択する方が良い。高分子薄膜静電容量式露点変換器を使うことも出来るが,水素を含む雰囲気中で連続使用した場合,約1年でセンサ部の交換が必要となる。どうしてもドリフトの発生が避けられず,精度も大きく落ちるためで,センサの使用開始から1年を超えての継続しての使用はできない。これに対し,鏡面冷却式露点計は原理的にもドリフトが生じないため,安心して使うことができる。ただし,連続使用は使用している電子冷却式ガスクーラー(ペルチェ素子)の寿命を短くし、さらに連続使用により鏡面の汚れも生じるため,製造現場での使い方,管理方法には工夫が必要となる。

【CRDS微量水分計の利用による連続焼結炉の雰囲気の露点の連続計測について】
 2023年7月から供給される神栄テクノロジー株式会社が日本国内で開発・製造したCRDS微量水分計を使うことで,-100℃〜-55℃の領域での連続露点計測が可能となった。ペルチェ素子などの低露点計測において劣化しやすい部品を使用しないことから,焼結炉などで-55℃以下の低露点の雰囲気ガスの露点(実際には霜点)の連続計測が実現できる。
 ただし,露点計測の配管の施工やフィルタの選定など,難しい部分もあるため,導入に当たっては低露点のガスの露点(霜点)計測に十分な経験と知識が求められる。


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9. ガス窒化炉の雰囲気の鏡面冷却式露点計を使った計測について

ガス窒化炉の雰囲気の計測の前に知って欲しいこと
 鏡面冷却式露点計は,鏡面の周囲の気体の圧力が101325Paである場合,その気体に含まれる水の蒸気圧と水の飽和水蒸気圧が等しくなる温度を検出している。
 つまり,鏡面の温度における飽和水蒸気圧が鏡面の周囲の実際の水蒸気圧が一致したとき,鏡面上に結露を生ずる。鏡面冷却式はちょうど,結露が生ずる温度と鏡面の温度を一致させるようにその温度を制御する。このときの温度が露点(または霜点)である。
 ここで重要なことは,水(H
2O)との親和性の高い成分が露点を計測しようとする気体の成分として含まれる場合,例えばアンモニア(NH3)が含まれる場合,鏡面冷却式露点計はH2OとNH3が結びついたもの(この場合はアンモニア水)の蒸気圧が101325Paになる温度を計測している。これにより得られた値は,露点ではなくアンモニア水の沸点である。アンモニアの沸点は,-33.34℃であるが,ここに水蒸気が混ざると沸点が上昇する。鏡面冷却式露点計は,この沸点を正確に捉えており,鏡面に付着したアンモニア水に含まれるH2Oの量により,鏡面冷却式露点計で計測される温度は変化する。
 
つまり,鏡面冷却式露点計では正しい意味で,ガス窒化炉の雰囲気の露点は計測できない。ただし,これまでの経験から,鏡面冷却式露点計を使って計測された雰囲気ガスの沸点の値はガス窒化のプロセス管理に利用できることは分かっている【重要】。
 
NH3の101325Pa(=1atm)における物性と鏡面冷却式露点計の挙動
 NH3の沸点 :  -33.34℃
 沸点における蒸気圧 101325Pa    (参考:H
2Oの場合,100℃で蒸気圧が101325Paになる)
 
 NH3は,NH3のみの状態で,-33.34℃においてその蒸気圧は101325Paである。
 一方,H2Oは,H2Oのみの状態で,100℃においてその蒸気圧が101325Paである。
 この蒸気圧が周囲の圧力が101325Pa(=1atm)の環境において101325Paになる温度がその物質の沸点である。
 
 ここで,100%のNH3ガスを鏡面冷却式露点計を使い,鏡面に何℃で結露が生ずるかを考える。このとき,鏡面冷却式露点計の周囲温度とNH3ガスの温度は仮に25℃であるとする。
 NH3が100%の状態の条件(高純度アンモニアの場合)において,鏡面冷却式露点計の鏡面上に汚染物質が全く存在しない条件で,鏡面の温度が-33.34℃になると,鏡面上のNH3の蒸気圧は101325Paとなり,NH
3は鏡面上で結露する。
 このとき,鏡面冷却式露点計は理論上,-33.34℃を表示するが,この-33.34℃はNH3の露点ではなく,沸点である。
(そもそも,NH
3の露点は非常に低く,高純度アンモニアの場合で製造所からの出荷時にガス中に含まれる水分量は12ppb前後,つまり露点(霜点)で-100℃前後になる(CRDS微量水分計による計測)。工業用アンモニアの場合では,霜点に換算して-55〜-45℃FPに相当する水分量である(CRDS微量水分計またはTDLAS式露点水分計を利用した計測)。これが-50℃以下の霜点のN2と混合しても-33℃以上の霜点(露点)になることはありえない。つまり鏡面冷却式露点計が表示している数字は霜点(露点)ではない。)
 
 ここで,100%のNH3に対してH2Oが混合すると鏡面冷却式露点計で計測する値が-33.34℃から上昇する。
 このとき,NH
3の濃度が下がり,その鏡面上に存在するNH3とH2O混合物(NH3とH2Oが極性引力で結びついたもの(以下,便宜上NH3・H2Oとする))の蒸気圧が下がる。鏡面冷却式露点計は,鏡面上の蒸気圧を上げる方向に温度を制御する(鏡面の温度を上げる)ため,鏡面冷却式露点計が表示する温度は-33.34℃から上昇する。
 
 NH
3とH2Oは,共に極性を持った分子であるため,結びつきやすい性質があるが,結びついた時にNH4OHという化合物が作られるわけではないことが近年の研究により明らかになっている。かつての高等学校の化学の教科書の記載には誤りがあったのである。
 
 窒化炉において実際の炉内雰囲気の露点,つまりH2Oが結露する温度は-50℃以下のはずであるが,これを鏡面冷却式露点計により計測することは不可能である。これを正確に計測するには,TDLAS式露点水分計またはCRDS微量水分計が必要である。つまり,蒸気圧に依存しない水分計測の方法を用いなければならない。
 
 NH
3H2Oが混在する気体を鏡面冷却式露点計により計測すると,その気体に含まれるNH3NH3H2Oの混合物の沸点が計測されるが,この値は工業炉,特にガス窒化炉の雰囲気ガスの管理に古くから用いられてきている。この値が一定の値よりも高い場合に,窒化が入らなくなると言うことは,経験的に知られている。例えば,この鏡面冷却式露点計で計測される値が-15℃以上を示す場合,鋼を窒化しにくいことなど,各現場にデータとノウハウがある。
 従って,窒化炉のプロセスの管理に鏡面冷却式露点計を利用することは可能であり,また大いに有効と言える。しかし,何が原因で雰囲気の(露点ではなくて)沸点が高くなっているのかは分かりにくい。おそらく,炉内雰囲気中の水蒸気量が増えていることが原因と考えられる。
 窒化炉の雰囲気の露点計測において鏡面冷却式露点計を使った場合,正しい意味での露点計測にはなっていないことだけは理解しておく必要がある。

 ガス窒化については,窒化が入る,入らないということに対して,窒化の前工程である前洗浄が大きな影響を及ぼす。前洗浄で使われたアルカリ成分の残渣があれば,窒化は入りにくい(入らないと断言する技術者もいる)。また,油分が残っていても窒化は入りにくい。近年,窒化ポテンシャルの話がよく言われるが,それを考える前に製品表面の状態や炉内に供給する窒素の露点を見直すことが必要であろう。

より正確なガス窒化炉の露点計測のために−TDLAS式露点水分計の利用
 そもそも窒化炉に供給される工業用アンモニア(NH
3)にはH2Oほとんど含まれていない(通常,水分はppmオーダーに抑えられている)。そのことから,鏡面冷却式露点計では,窒化炉の露点(実際にはNH3を含むガスの沸点)が何の影響で上昇したのかを掴みづらい。
 
 先に述べたように,ガス窒化炉の中に存在するH
2Oは,NH3・H2Oという形で存在する。
 H
2O自体は形を変えてほかの物質になっているわけではなく,NH3と極性引力により結びついているだけである。そのため,蒸気圧に依存しない気体に含まれる水分量の計測方法を用いれば,気体に含まれる水分量を正確に計測できる。
 
 ここで注目すべきは,2017年に神栄テクノロジー株式会社から製品化された
TDLAS式露点水分計である。Lambert-Beerの法則に基づいた測定原理による可変波長ダイオードレーザーの吸光光度分析計である。
 2原子以上で結合した分子は、赤外〜近赤外領域で伸縮や回転等のモードに由来する固有の周波数で吸収現象を起こす。水分子が持つ固有振動数が吸収する波長域において、入射光の強度I
0と透過光の強度Iとの比の対数が吸収物質の厚さLに比例すること、光の吸収係数が濃度Cに依存することから、これを水分量として測定し、露点値を導いている(詳細は神栄テクノロジー株式会社ホームページへ)

 ガス窒化炉の雰囲気ガス中にはH
2Oが存在するため,TDLAS式露点水分計は使用可能で,既に窒化炉以外の用途において,NH3を含むガスの露点計測には活用されていて納入実績もある。NH3を含む気体の露点の測定精度(再現性)は±0.5℃DP以内と考えられる。
 
 TDLAS式露点水分計のガス窒化炉での露点計測の実績は,テスト的に行われた程度であるが,神栄テクノロジー株式会社製のTDLAS T-1により妥当性のある露点の値が計測できている。
 今後,さらなるTDLAS式露点水分計によるガス窒化炉の雰囲気の露点計測の実績を積んだ上で,お客様にご提供したい。


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10. 液体窒素を気化させた窒素ガスの露点(霜点)が十分に下がらない場合の対策

 液体窒素を気化して供給されるNは,液体窒素のストレージ(タンク)から供給される。このストレージに液体窒素を供給するのは,通常はタンクローリーを使って行われる。

 タンクローリーからストレージに液体窒素を移し替える際,ホースなどを使って行われるが,このとき,継手部分にごく僅かなデッドゾーンがあり,そこに空気が入る。その空気中に含まれる僅かな水蒸気が液体窒素から供給される窒素ガスの露点を上昇させる。
 この水蒸気は,液体窒素のストレージの中では,細かな氷として浮遊している。
 この浮遊している氷を,液体窒素をベーパライザに送る途中で,ストレーナを使って除去することにより,かなりの量を除去できる。
 ストレーナを使わない場合,ガスとして供給されるNの露点(霜点)は,最悪,-40℃に達しないケースもある。これに対し,スレーナを利用して氷を除去することで,-90℃の露点(霜点)を得ている実施例が日本国内にある。
 ストレーナのメッシュの選定については,液体窒素を供給しているガス会社との間での検討が必要である。

 「元が液体窒素だから,供給される窒素ガスの露点は十分に低いはずだ!」という誤った常識は捨てなければ,窒素ガスを利用したプロセス(金属熱処理だけでなく,食品入った袋に酸化防止のために充填する窒素ガスも)全般の改善は難しい。
 
 焼結炉やガス窒化炉に供給しているNガスの露点(霜点)は,-50℃以下,あるいはそれよりも下がっていることが必要であるが,もしも窒化炉の場合での雰囲気の露点(霜点)が下がらないことが熱処理のトラブルの原因と考えられる場合は,まずは,炉に供給しているN
2スの露点(霜点)を計測し,それが十分に下がっていない場合には,液体窒素に浮遊している氷をストレーナを使って除去することを検討することが必要となる。
 脱炭素を目指して雰囲気ガスをN2+H2に変更する場合は,なおさら液体窒素のベーパライザの二次側のN
2ガスの露点計測は重要になる。

 液体窒素を気化させて供給するN2の露点(霜点)管理にはCRDS微量水分計が対応できる。絶対湿度(ppm)での計測だけでなく,絶対湿度を霜点(℃)に変換して表示することができるので,非常に分かり易い。また,微量水分領域の連続計測ができるため,窒素ガスの品質管理において強力な武器となる。


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【参考文献】

日本規格協会編:『JIS Z 8806:2001 湿度ー測定方法』, 2001年4月

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